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『雪道』 |
5年くらいは経つと思いますが、お世話になったお得意様の初代社長様がお亡くなりになり、せめてお見送りだけでもと思い告別式会場にまいりました。
ご指名を受けて最初に長年の取引先として弔辞を述べられた方。忘れもしない30年以上になりますか、当時温厚な課長さんで私を大変ご贔屓にして下さった方だったのです。
懐かしさいっぱいで式が終わり移動の隙を捉えご挨拶に伺いました。
「お久しぶりです。その節は大変お世話様になりました」会社名と私の性を申し上げました。歳はお取りになっても眼鏡越しに昔と変わらぬ温厚な眼差しで暫く私の顔を見つめて、
「あぁそうだ。わかります。元気でやっていますか。今日は会社を代表という形で挨拶させて頂きましたが、今は会社を退職し県の委託で仕事をしております」
故人との長く親しい間柄から会社に依頼され、自分自身もお別れの挨拶はしたかったので参列されたとのことでした。
お会いしたことは、県外でもあり両の手でも余る程度の回数だったと思いますが、無理は言われずメーカーの担当者や私の話などもよく聞いて下さいました。
いつもは電話を頂いてから電車または車でお邪魔しておりましたが、ある冬の日、メーカーの担当者と一通りこちらのお客様への訪問も終え、余った日時をどうすると言う事になり、思いついたところが「課長さんに会いに行こう」となったのです。
「明日の午後、遅くとも3時頃までには入れると思います」
「話は聞きたいし何時でも来るって言うなら待ってるけど。雪もあるし無理しなくていいよ」
高速道路は勿論ありませんが、国道8号線は米山大橋も開通しており何回か通った道でもあり、雪による障害さえ発生しなければ午後1時か2時には間違いなく到着する。そんな計画で二人で快適なドライブ気取りで出かけました。
途中上越から国道18号へ入り、目指すは長野。しかし新井市からは大変でした。スノータイヤにチェーンを装備し走行には万全をとったものの、まっ白な路面で家並みの切れた側面もまっ白。踏み固められた圧雪はテカテカで人が歩ける道路ではありません。
この先に事故でもあったのか、のろのろと、走るというより停車の時間が長く、前後は車がビッシリと繋がって身動きの取れない状態なのです。
雪は小降りで気にすることもなかったのですが、満タンで走ってきた油量計と時計の針のにらめっこがはじまりました。冬の日暮れは早く周囲の闇が一層恐怖感を募らせます。
今日中に着けるだろうか。いったい何時頃になるだろう。まだ県境まで大分ありそうだし。
途中4時30分頃に電話をいれたら「待ってますよ」でもあれから3時間。引き返そう。
公衆電話を探して掛けたら席には居られないとのことで、事情を説明し、宜しくお伝え下さるようお願いして帰路につきました。それまで無口だった二人、急に話に花が咲いて。
翌日お詫びの電話をしたら言伝が届いていなかったそうで、11時まで待っておられたとのこと、ご迷惑をお掛けしてしまいました。 |
樋山忠明 |
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