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『訃報も無かった友の逝去』 |
時々寄っては近況を話し合うというより、私に情報を授けてくれると言った方が本当でしょう。その彼が「あいつはどうしてるんかなー。年賀状のやりとりすらないんだから」来るたびごとにそういってもう半年以上にはなる。
彼とは同じ商社に勤務し、彼が独立して商売を始めると間もなくその噂のM氏も独立開業したのです。
制御関係に詳しく、商品のアプローチも鮮やかな彼に比べると、ちょっと物静かで、この人何が得意なんだろう、と考えさせられるところがありました。
でも質問すれば応えてくれるし、でなければ次回にカタログを揃えて持参して説明してくれます。一番印象に残っていることは、いつ来社しても帰りがけには必ずと言って良いほど一枚のカタログを置いていくことでした。そのM氏が
「私も商売を始めましたので宜しく」といって差し出された名刺には会社名がありますけれど、何を商うのか判断が付かないのです。20年位前のことです。
「どんな仕事をするの?」
「何でもやります。探します。紹介します」
商品については確かに広く浅くと言えるかも知れませんが、結構何でも知っていました。
それに人的交流が広い事には感心させられました。彼に話をすれば何でも探してくれます。一度機械設計をやっている人、会社をお願いし紹介して頂きました。成約には至りませんでしたが技術的にも優秀なところで、私のお願いしたことは恥ずかしい案件でした。
お互い年もやや同じこともあって、3人で飲もうよ、と言う事で年1回3年位は続いたでしょうか。ある時、私がこれからは環境関係のこの辺の商品が売れるんではなかろうか、と云ったら早速持ってきて云うのです。
「この製品は間違いない、この単位で買えば代理店の資格がとれるから半分位協力してほしい」
「この商品の良いことは間違いなかろうが、当社ではそんなに売れるものではない」と断ったのです。でも彼にしてみればヒントは私が出したことでもあるし、仲間に引き入れてやれば良い商売になる、と考えていたかもしれません。実際それだけのものを買い取ったかどうかは分かりませんが、1個だけ買わされました。
その後顔をみせることもなかったのですが、5,6年前でしょうか、彼が来て「M氏は商売辞めたらしいよ。また会社勤めをしているって聞いたよ」そしてつい先日
「死んだらしいよ。癌でね。それがいつだか分かるやつが居ないんだ。前の会社のあの頃の仲間に聞いても誰も知らない。とんでもない所から聞いたことでね、彼の家も知らないしどうしようもないってとこさ」
そして帰りがけに「3人で飲りたかったね」ちょっと寂しそうにポツリと。 |
樋山忠明 |
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