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『めずらしい電話』 |
あと5分くらいで会社へ着くと思われる所でで携帯電話のベルが鳴りました。
後続の車も見えなかったけれど路肩へ停めて聞きました。
「今会社へ寄ろうと思って来たけれど、あなたの車がないからどうしようかと思って電話したんだけど、忙しければいいよ。日を改めてくるから」
「すぐに着くから寄っててよ」こんな電話貰ったことが無い。ちょっとおかしい。
そう思うと少しでも早く帰ってやりたいと思い、いつもは走ったことの無い道へ入り込んでかえって時間を食う結果になってしまいました。「遅くなっちゃってごめん」
いつもと変わらず笑顔で向かえてくれましたが、いきなり
「社長、商売止めることにしました。お世話になりました」私はびっくりして「どうしたの」
「だってね、もう1か月も注文らしい注文が全く無いんよ。電話もファックスも滅多に鳴りはしない。お客さんの所へ行ってみれば仕事が無いって遊んでるよ。おまけに1社やられちゃったし。借金がまた増えたけど年金で少しづつ返していくことにして、会社としてはちょっと始末が終わるまでのこるけど」
返す言葉がみつからない。複雑な気持ちでした。
彼のことは「ステップ 1」でも紹介したことがあったけれど、彼自身が開業前にはいろいろと指導頂いたり、力になってもらったことが沢山ありました。
ある時電話で「22kwのインバーター制御のモーターが回らないんだけど、ちょっとおかしいみたいなんだ、どこを見ていけば良いかね」「今行くよ。場所は何処?」
「ありがたいけど来てもらうことはできないの。名古屋にいるの」
「それはだめだ。じゃ、これから言うとおりにインバーターを操作してくれれば必ずうまくいく筈だから」それから電話を通して次々と指示をもらい、無事回転してくれたのです。
不慣れな私でもできたのです。また、開業してからは、とにかくお客様のことはよく聞いてやる性格で、ある時は埼玉の開業医の所まで特殊な電気装置を作って納入据え付けにいきました。彼が打ち合わせ、その結果を私の方で作らせて頂いたものです。
据え付けも終わって夜遅くに帰る途中も車の中で「あと2セットくらいは入りそうだね。従来品よりも出来も操作性も抜群だって喜んでもらったし」期待しながら明るかったのに。
私にはすぐ支払もしてくれましたが、しばらくして言ったことは、「金、振り込んでくれないんだよ。どこか拙い所があるなら直しに行くから、といっても調子は良いです。月末には振込ます。うそばかりでさ」「トラックで取りに行くか」「難儀して2階へ上げたのに、降ろすことを考えると、仕方ない諦めるよ」慕い、頼っていく者には、全く疑いの心を持たず尽くしてくれた彼でした。健康に留意されて、今度は仕事を離れた立場から助言、ご指導頂きたいと思っている次第です。 |
樋山忠明 |
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