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『めずらしい電話 その2』 |
「Sさんから電話です」珍しいこともあるもの、いつもは私の方からお願い事ばかりなのに「久しぶりですね。悠々自適な毎日はいかがですか。私には羨ましいかぎりですよ」
「たまに会社へ顔を出すと、何をしに来たと言わんばかりで見られるから、今は専ら畑に追いやられて畑仕事に専従ですよ」
電話の用件はお客様から溶接のことをいろいろ聞かれたけれど、自分にはさっぱり分からない。そこで直接行ってもらうから話を聞いて、相談に載ってやって欲しい。と言うことでした。「どうぞ」と言って電話はきれたのですが、一時間後来客とのこと。名前を聞かされたけれどさっぱり見当もつきません。とにかく会ってみることにして店へ出ました。
「先ほどSさんから電話して頂いた者ですが、よろしくお願いします」
なんと早いこと。要件は洗浄装置の部品の修理で定期的に発生する仕事で、外注先を紹介願いないかと言うことでした。本来ならちょっと高価な機械があれば良いのですが、そのような設備を持った工場はそんなにありません。しかも一般的な仕様の機械では間に合わず結局専用化した機械でないとできません。そこで他の方法で対応することにして、やって頂けそうな工場をお世話することになりました。
元気、元気やる気十分に感じられる彼の担当は製缶工場の営業担当。
聞けば今の会社は入ったばかり、「おまえ仕事無いんだったら内へ来ないか」と誘われてお願いしお世話になっているとのことでした。
前の会社は倒産、民事再生で立ち直る筈だったが、開けてみたら受注残も受注見込みもみんなうそ、何の根拠もないことで受注見込みの件名は限りなく0に近い状態で、一時は民事再生に期待をかけていたけれど、それも不可能となり、「全員クビですよ」
「でも私は幸せでしたよ。被害を被った債権者に拾われてこうして生活出来ますもの」
そんなある日、「携帯電話のベルが鳴ったのです。見れば前の会社時代お世話になった県外の取引先からでした。前の会社でやっていたことを、引き続きやってはもらえないか、ということだったのです。早速社長さんに話をしたところ、自分でまとめられるなら願ってもないこと、行って来い」と言われて聞いてきたこととか。
「値段も前の通りで良い、仕様もそのとおり。何回も礼を言って帰って社長に話をしたら、そんなに継続的に出る仕事ならば有難い。程度によるけど設備も考えてもいいよ。と、言われたんだけど、この先は分からないでしょ。元は半導体に係る仕事でもあるし。私もお世話になったばかりだから万一ってことも心配だし」
「そうだね、その時は安くてしかも仕事のやり易い方法を考えて作ってやるよ。だから何でも教えて」 |
樋山忠明 |
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