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『御苦労さまでした。今後もいつまでも、いつまでもお願いします』 |
1通の手紙がきました。
会社を引退されるということ。長年一緒に仕事をして全部教えてあるから心配ないとされて、社員の方に工場、機械設備の一切を貸与して自分は身を引かれるとのことでした。
この話は以前から聞かされていたことでしたし、私より高齢でもあり、やむを得ぬことというほかありません。溶接機メーカー在職中からお世話になっており、不安なところ、自信が持てないところなどがあると、いつでも相談にのって下さり、名案を授けて下さいました。
県内第一号の特殊シーム溶接機を納入した時はその使用条件の究明に尽くして下さり、結果において容量不足であると認定され、その上の機種に取りかえるとの決断を下し実行して下さいました。今も正常に稼働しております。今回の件もご指導頂きました。
私が「テーブル式スポット溶接機」を初めて知ってご採用頂いたのは35年位前になると思います。大きなワークでおまけに100点余の溶接点がありましたので、普通の定置式スポット溶接機では大変な作業だったのです。2台ご採用頂き生産に大いに貢献してくれました。
しかし、アームの下に吊り下げられた上部電極へ通電する「水冷ケーブル」が重く作業性を阻害しているのです。これを何とかしなければ、と思っておりましたがユーザーからの苦情も無く一応の成果を治め、サーボモーターの出現で入れ替わり姿を消してしまいました。
そして3年前、縁あって「テーブル式スポット溶接機」作らせて頂けることになり、今度こそ、と挑戦したのが今回の開発につながりました。
いろいろと試行錯誤の末、第一号ができました。しかし疑問点も勿論出てきました。
「ちょっと教えて欲しいことがあるんですけど、お邪魔してよろしいでしょうか」
「いいよ。いつ来れる?」
教えて頂きたいことをまとめて、機能上必要と思われることはご理解願えるように全て用意してでかけました。私の質問、心配事項を説明しそれぞれにご指導頂き、私には自信をつけさせて頂きました。そして
「良くここまで考えたね。これは使いやすくて良いでしょう。私も在職中は何台か作りましたよ。でもねこれは気付かなかった、というか、「テーブル式スポット溶接機」はこれで良い、これが当たり前だとみんな思っていたんだから。お客さんだってそうだよね」
良くやった。良く考えた。とお褒めの言葉を頂戴し
「あのね、「冷却ケーブル」の長いのは3m位あったかな、それが長いアームの下に吊り下げられて、重くて自由がきかなくて、通電する時キックするでしょう。たまに現場の作業者に云われたことがあったけど、しようが無いんだよ。というと相手も分かってくれたようだったな」
引退されても私の「師」には変わりなく、いつでも門戸を開いていて下さいます。
尚「スポットマン」は、去年、(財)日本発明振興協会、日刊工業新聞社共催の第35回「発明大賞」に応募し「考案功労賞」を受賞いたしました。 |
樋山忠明 |
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