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『退役軍人とサヨナラして』 |
長い間預かって頂いた機械類を引き挙げねばならなくなりました。
倉庫の土地が売却されることになり、壊して新地にしなければならないのです。
とは言ってもそっくり工場へ持ち込んでも工場での仕事が出来なくなってしまいます。
先方の都合もあることですから、取りあえず工場へ入れてもらう、その前にスクラップにすべきものは戸外に置いてもらうことにしました。
それは私にとっては、それぞれが想い出深い可愛い子供、否会社を助けてくれた恩人と云った方が良いかも知れません。お買い上げ頂いたお客さんのところでは良く働いてくれました。そしてそれぞれの役目を終えて後の始末を頼まれた、処分を依頼された機械類なのです。
でも、どこかで類似の仕事でもあれば、手を加えればまだまだ働ける能力は持っているのです。きっと出番は来る。そう思って処分を延ばしてきて、考えてみれば20年以上保管していた溶接機もあり、短くても10年は経っておりました。
サーボモーターを使って作業者はワークの脱着のみで、スポット溶接が溶接位置も溶接点数も正確に行ってくれました。2台を一人で、しかも必要数量も充分確保され、喜んで頂いたのですが、ある時その製品が中国へ移行し、お役御免になったのです。処分を依頼され可愛いわが子を返されたような気持で、新しいお客さんを待っておりました。数年後に1台はちょっと改造しましたが役立てて頂きました。そして1台が私を見つめて居ったのです。
変わったところでは、薄板用の突き合わせバット溶接機です。ちょっと珍しい機械でもあり、そんな仕事でも出てその機械を求めるとすれば、結構な金額にはなる筈です。
その仕事も年年減少し、全く稼働しない月が数カ月続き、結局生産が打ち切られてしまったのです。ちょっと特殊な機械のため、もし類似の作業をしたいという方があれば願ってもない買い物になるでしょう。
この装置のメーカーは既に解散してありませんが、自動機をはじめ、主として特殊な専用機でお世話になりました。営業担当者も設計、技術の方とも親しくお話をさせて頂いておりました。
もう一台は見た目は普通のスポット溶接機ですが、高使用率のトランスとちょっと変わった加圧機構を持っていた機械です。ある時、「こんな溶接ができませんか」との相談をうけたのです。これまでお願いしている所は埼玉で、この仕事はもうやらないと云われて困っている。では当社でやりましょうか。私の好奇心からこのスポット溶接機を改造すれば必ず出来る。ちなみに本当にやろうとすれば特殊な専用機を作らなければならず、結構高価な投資になる筈だったのです。私も張り切って構想を巡らし製作にかかりました。ちょうど半分出来かけたころ突然「あの仕事辞めることにしました。申し訳ありません」
いろんな想いが残るこの中古機械というより、退役軍人、この先にきっと出番はあると思うが、そう言ってこれ以上引きとめておくのもいかがなものか。保管場所さえ無く社員には整理の必要性を説かれ、業者に引き取って頂くことにしたのです。勿体ない、勿体ない。
ありがとう。ごめんなさい。御苦労さん。 |
樋山忠明 |
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