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『蛙の合唱がいつのまにか消えてコオロギに送られて』 |
田植えの終わった水田近くの道添えの夕方は、いつも蛙の忙しなさそうに、しかもユーモラスに聞こえる合唱が聞けたものでした。
何時の間にか聞けなくなって、水田は黄金色に稔り、やがて刈り取りも終わった今、今度はコオロギの合唱で送りだされ、それもやがて聞けなくなり冬の到来となってまいります。
今年の総決算はまだすべき時ではないでしょうが、日本だけでは無く外国に於いても災害の多い歳でした。その度に言われる事が被害を被った会社、企業は今後の生産活動の見直しを如何にすべきか、被害を受けずに生産活動を行うにはどうすべきか。どこで、どの国で、すべきなのか。日本国内での見直しはあまり聞けません。あちこちに工場用地を造成して入居者を待って居る状況にも関わらず。
先日も電話を戴いてお出でになったBさんも、
「仕事がないでしょうか。私の出来る仕事をお世話願えませんか」
聞いてみると週に2日、3日もあれば良い方とか。
「だいぶお働きになったのだから、もう仕事なんて云わないで奥さんと旅行でもなさっていたらいかがですか。動ける内が花ですよ」
「良いことか、悪いことか、私は趣味も道楽も無いんです。毎日やる事が無くて本当に身のやり場もなくて困っているんです。と言って何でもできるということも言えないので困っています。先日仕事としては良い仕事をお世話戴いたのですが、頭はしっかり分かっているのですが、手が思うように動いてくれず結局お断りせざるを得なかったのです。おかしいんですよ。何でもない事なんですよ。今までと言っても類似のものは去年あたりまではやってきたのです。まさかそんな仕事が出来ないなんて考えられない事でしたよ。とにかくトーチを持った右手が思うように動いてくれないんです」
「そうですか、それでどんな仕事を望んでおられるんですか」
「TIG溶接用のロボットがもう古い型ですが、悪い所もないしテーチングも出来ますからロボットで出来る仕事が欲しいんです。物によっては冶具も自分で作れますし」
テーチングが出来れば溶接姿勢や条件はこれまでの経験で充分可能でしょう。ロボットなら直接の仕事はロボットがしてくれるわけですから、肉体的には軽作業で可能なわけです。
「TIG溶接では特にロボット向けのある程度の数量も見込める仕事は難しいですね」
それは30年以上前の事になるかと思いますが、初めてお会いしたのは工場とは名ばかりの庇を出したお粗末な所でした。若かったBさんと若い奥さん、傍らに箱に入れられ眠っている赤ちゃん。アパート住まいで借り工場。市外から職を求めて来られ起業される人達の典型的パターンでした。それから土地を求め家と工場を建て子供を育てながら二人で働く。
あの時の赤ちゃんは大学を出て一流企業へ就職し、奥さんと子供さんにも恵まれて東京周辺のマンションを求めて暮らして居られ、年に一回の里がえりが良い所と言われます。
勿論自分達の仕事の後継者は居られません。 |
M、N |
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