|
|
| 『風来坊さん ご苦労さまでした』 |
私が知ったのは夕方5時、外出から帰って机の上にあった1枚のファックスでした。
受信は7時3分、早く見ておれば通夜式には時間的には間に合って行けたのです。でも、せめて1日の猶予があれば、とは言っても前からの約束事で行けなかったでしょう。
この「ステップ１」で風来坊の名で旅日記を書いて下さっていました。去年の74号にNo８を載せて頂いてそれが最後となってしまいました。
風来坊はＹさんの自称だったと思いますが、ことによると私が付けたものかも知れません。
Ｙさんの両親は新潟県、今の魚沼市出身、東京で生活して居られ彼も大学を出て特殊な抵抗溶接機メーカーの営業マンとして働いておられました。
私が始めて知りあったのは、もう40年くらい前になると思いますが、従来から取引はありましたがメーカーとして初めての御来社戴いた方でした。
特殊な機械でしたので需要も限られており、年に1，2度でもあれば良い方でしたでしょう。退社されるまで地域を担当して居られ、退職後も年に2回くらい、ある時は駅からの電話、又は事前に日程と時間の連絡をもらったりして寄って下さいましたので長いお付き合いになりました。庭に花梨の木があって沢山実がついたからと送って戴いては花梨酒もつくりました。Ｙさんの特に変わった所と言えば車の免許を持っていないことでしたでしょうか。
「免許を持って居ない営業マンなんて貴方くらいだろう。良く営業で採用してくれたね」
「お客さんが全国だから、遠方で車で行くにも大変なところもありますので、電車の利用も結構あるんです。夜行列車を利用することも。車に載れる人は車で行ける範囲なら時間も気にせず行くんですが、電車というとあまり行きたがらないんです。その点私は一切気にしませんので、どこでも受けちゃうんで会社としても宜しいんじゃないでしょうか」
とにかく一人で時刻表を持ってどこでも行っていたようで、数回の出張になれば馴染みの宿も食堂、スナックも出来てそれなりに楽しい出張だったようです。お酒も結構飲める方ですがいくら飲んでも全く変わりません。少し口数が多くなるくらいでしょうか。でも仕事や会社のこと同僚の中傷等に関しての愚痴は一切聞いたことがありません。
会社を辞めた後も亡くなった両親の墓が魚沼にあることで、春または秋のお彼岸にはよく来ておられ、その度に当社へも寄ってくださって夕食を共にしたりしておりました。
今年も春のお彼岸の内に一度来ようと思っていると聞いて居りましたので心待ちにしておりましたが病魔がそれを許さなかったようです。
自分の身体を承知しており、生涯独身で通し、知らなかった昔私が女性の話をしても何の返事も返って来なかったことを思い出します。わけあって子供を連れた妹を家に向い入れ一人暮らしから解放されて一緒の生活をしておりました。余程嬉しかったと見えて何度も話を聞かされました。そして最後をも見取って頂き、葬儀も執り行って戴いて良かった、彼も喜んで逝ったことと信じております。
いつも何が入っているか分かりませんが結構重いリュックサックを背負ってひょっこり現れる、今日も来そうな、そんな感じさえする風来坊なのです。 |
| Ｍ、Ｎ |
|
|
|
|
