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【ある新年会の想い出】 |
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「あなたも、見事に老けたなぁ」
「何言ってんのよ。自分のことを棚にあげて。お互いさまでしょ」
カウンター越しのママの顔をじっと見つめて、表情も変えず言ってしまったものだから直ぐにお返しを食らった。
毎年恒例の仲間の新年会があって、最初はお座敷で顔合わせ一年ぶりで会う懐かしい友もおり、話がはずみ、酒もすすんで男のみ7人結構賑やかな宴となった。
高校を終えてお互い仕事についた。そして30年。嫁さんもそして子どもも居る筈なのにそれが話題に出ない。勿論私もしない。ここには居ない同級生の近況、うわさ話などの俗に言う世間ばなし、そして一般的な景気の動向などが酒のツマミになっている。
時間が経てば酒もまわって顔色もよくなった。さほど酒量も多くなく酒には弱いと自称する彼が自分の勤めている会社の話をはじめた。関東に本社があってその出先工場の総務に所属している。
「今期は今まで低迷していたのにやっと業績が上がってボーナスも弾んでもらって良かったよ」みんなは羨ましそうに賞賛の声を上げる。
突然一人が待っていたかのように喋り出した。
「あんなやり方で納入業者を扱いてやれば利益の出るのは当たり前だろう。長い取引だから少しの無理は聞いてやろうと付き合ってきたが、もう我慢できない所まできてしまった。そこでお願いしたら『協力できないなら仕方ありません』そんなことってあるかい。絞れるだけ絞ってそれが出来なければ縁切だ。それで出た利益だろう」
「そんな話になると自分は知らない」と、当惑したように彼は言う。
さて、困った。一挙に座がしらけてしまった。だめだ。酒の席には「女」が必要だ。まさかそんな関係にあったとは知らなかった。まずかった。
その場はどのようにして繕われたか今は記憶にない。その後いつものことでいつものスナックへ行った。幸いにも若い「女」の妓が居ったのでボックス席でも救われた感じだった。
暫くは二人の女性がツマミになってくれて助かった。----------------------------
「実は今日はいつもの仲間の新年会だったんだ」
「それでもう散会したの」
「自分は一人で出てきたけれど、もうみんなも帰るんじゃないかな」そして店に客は居ない事さいわいに、先刻のしらけた新年会のことを話した。
「そんなこと良くあることよ。会社の新年会なんか社員同士が取っ組み合いの喧嘩をするなんてざらよ。それはね、「女」の妓がおってもあることよ。日頃のうっぷんばらしと言うやつね。あなた本当にそんなこと聞いたことも遭遇したことも無かったの」
そうか、確かに聞いたことはあった。そのために新年会をやらないとか、会社の旅行も止めたとか何処かで聞いたような気がする。
「そんなことどうでもいいの。こんな時でもないと寄ってくれないんだから。今日は二人で新年会よ。呑みましょ」
あれから新年会と改まった集まりは誰も言い出さず、気の向いた時、都合のつく仲間だけで何回かやった。この日呑んだママも店も今は無い。 |
特別寄稿 K.K |
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