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【風来坊の旅日記 NO.6】 |
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梅雨が明けたと言ったら、待っていたかのように猛暑に見舞われてしまった。
そんな暑い日のことだった。勿論長野新幹線など無かった頃のこと。富山での仕事が思っていたより順調に終わった事と、独り身で土日の連休の前ともなれば気が騒ぐ。
そうだ、夕涼みを兼六園でとろう。ホテルも取れた。日の落ちない内に入りたい。
金沢駅でタイミングよくバスに飛び乗り10分ほどで着いた。さすがにこの時間になると団体、グループ旅行の人々の集団は見当たらない。
何回か来ているのでさほどの感慨もないが、これが加賀100万石の歴代藩主により築かれた日本の三大名園の一つというだけあって、ゆっくり眺めて回るには時間もかかる。
象徴的な露ヶ池の[ことじ灯篭]、足が二股になっていて琴の糸を支える琴柱に似ているのでその名がついたという。いつも思う。この場所にふさわしいと。水面に映るさまを見て池を巡り眺望台から暮れゆく街、山並みに暫し目をやり、ホテルへ帰りお酒でダウン。
朝の目覚めは快適、本当は今日の予定があったのだ。金沢はオマケの夜だったのだ。
そのわりには良く飲んだものだ。
再び富山へ返し私鉄で[宇奈月温泉]行きの電車で1時間少々。
欅平までのトロッコ電車の駅は渓谷での凉を求めてか、結構な人だかりで賑やかだった。
改札がはじまりわれ先にとトロッコに乗り込む。進行方向右側の席がいい。渓谷に沿って断崖絶壁の線路が続き、時々トンネルがあるけれど眺めは良い。
望遠レンズの付いたデカイカメラを持った人も数人。私の前の席は3列にわたって自分よりは年配と思われる夫婦とその子供らしい3人が、一人づつ右側のシートを占領していた。
やがて発車。ゴトゴト動きはじめた。さすがに肌に感じる風、空気は清々しく心地良い。
社内のアナウンスで右手の山並、発電所の説明、そして垣間見る滝のいくつか。
カメラマンは立ち上がったり、中腰になったり、頭をねかせてカメラを覗きこんでいる。
途中[鐘釣温泉]に停車。ここは下の河原で露天風呂が楽しめるところ。降りる客は少ない。終着[欅平]まで20キロ余を1時間少々かけて到着。別に見るべきものとて無く、次の帰りのトロッコを予約して待つ。時間になればみんな集まってきておしゃべりで賑わう。帰りのトロッコもほぼ満員。
「今度は左側が眺めが良いんだからみんな左側のシートにかけなよ」
おばさんの声に誘われるようにグループの仲間達か、左の席が次々と埋まっていった。突然
「何してんのよ。あんたがのんびりしてるから、左側の席が無くなったじゃないの。早く乗ったくせにどうしてさっさと良い席を取ってくれないの」
甲高い女の声。夫と思われる男性を見ている形相はすごい。
なんとこの人達は来るときには私の前、右側に3人で陣取っていた人達だ。男は何も言わず、憐れむような視線で女の方を見つめて、そして目をそらした。
それにしても人前もはばからず、自分の夫に悪口を浴びせるとは人ことながらあきれてしまった。
何も言わずそっと目を逸らした夫の心中いかばかりか、察せずには居れなかった。
ちょっと気まずい旅の終わりだった。 |
特別寄稿 K.Y |
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