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【お伊勢参り】 |
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思いがけない「もの」が思いがけない人から宅急便で届いた。
瀬戸焼の可愛い徳利、伊勢神宮の御神酒であった。送り主は東京のクラブのママさん。
添えられた1枚の便せんに、お客さんの入りが悪く困っていること、そこで友人に誘われて一緒に「お伊勢参り」に行ったこと。そして「あなたの健康を祈願してきました。上京のおりにはぜひお寄り下さい」
その店は取引先の接待でお世話になったところ。和服がお似合いで座を和ませてくれる気配りママさん。しかも同県人と分かって親しみがわいたのか、季節の変わりめに決まって花だよりの一報を下さる。
それは去年の7月、友人とお互い夫婦連れで私も「お伊勢参り」に行って来た。
大阪から近鉄特急で約2時間、五十鈴川駅からタクシーで内宮へ。
「今日は泊まるの?内宮の次はどこ?お昼はまだ?じゃ「てこね寿し」を食べな」おかげ横丁のその店の前で止まった。「セットやなんかで他の物の付いたのはだめだよ。お金だけが高くていい事無いから。どうせ暇だからゆっくりして又駅へ帰って来てよ。駅で待ってるから」
待ってるなんか言っても駅前のタクシー、いつどんな客でどこへ走らされるかわからない。
待っていてもらわなくてもいいし、勝手にすればいい。
店は結構の入りだったが、そこは観光地さっさと席へ案内してくれた。そしてタクシー運ちゃんの言うとおりの注文をする。さすがにそれだけの注文は周りでは聞けなかった。みんなメニューから価格の高いものを注文していた。
参道の宇治橋の人通りも特に多いとも感じられない。渡りきって右方向へ向かう人波もむしろ疎らでガイドのかざす旗が2,3みえるくらいだった。
参拝を終えて帰りに名物のお餅をその店の縁先で食べ、ちょっと賑やかな“横丁”周辺をながす。それでも2時間弱は過ごしたと思われる。駅のコインロッカーへ荷物を預けておいたので、どうしても駅へ帰らねばならない。タクシーに乗って話あう。「あのタクシーいると思う?」「まさか、観光地でもあるしそんなことはなかろう」
ところが駅へ着いて車から降りたらタクシー乗り場で手を振っている男がいる。
「お帰りなさい。あれから客無し。言ったでしょ」行く時も2台、今も2台しかいない。
コインロッカーから荷物を出して、どうする?じっとこちらを見ている彼に手をあげた。「乗ってくれる?ありがとう。うんとサービスするから」
先の予定を話し、ホテルの到着時間も決める。「これでいいよ」料金も決まり走り出した。途中の観光案内は勿論のこと、街の景気やら、自分の口説き話まで「今さらタクシー運転手などしたくないんですよ。だってこんなにヒマじゃ金になんかなりゃしない。だから運転手が集まらない。親戚なんですよ。頼まれて仕方なく。本当は少ない年金だけど仕事しなくとも食っていけるんだから」と言いながら楽しいガイドでホテルまで案内して頂いた。
これも旅の名所に隠れた思い出として忘れられないのである。 |
寄稿S.K |
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