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【福は内】 |
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仕事に関係する仲間の会合が4時からとのことで、3時過ぎの新幹線でそのホテルへ向った。
会議といってもいつも決まりきったことで終わり、懇親会へ移る。そしてこれもいつものようにニ次会へタクシーに分乗し雪の町へ。
寒い、寒いと云い合ってドアの中へ吸い込まれていく。見ただけで尚寒さが倍増しそうな女性群が奥のテーブルへ案内してくれる。。「おい、寒くないのかい。やせ我慢してんじゃないの」
「寒いわ、貴方の身体で温めてよ」そんなやり取りでテーブルは賑やかに華やぐ。水割りにお湯割り各々手にしてまたも「乾杯!」
ホテルの懇親会とはがらりと変わった雰囲気で話題も変わる。
「しかし寒そうやなぁ、ホント風邪引かないかい、こんな薄着で」といって背中をなでる。
「イヤーン、くすぐったーい、あったかーい、」
さて、と、カラオケ自慢がマイクを持つ。拍手。いつもの酒場風景が繰り返される。
カウンター席も一人、二人と入り、更に賑わいは増してきた。
と、ドアが開いて2,3人の顔が見えた。何やらママと話し合ってるようす。そしてそのまま出てゆきドアが閉まる。いったい何があったのか。ママの所へ行ったら透明ケースに入った1枚の絵を示された。
「それどうしたの?」“赤いほっぺをしたお福さん”の笑顔が可愛い。下の方に「福は内」と書いてあった。
「節分にあやかり“神楽”でお払いし、豆まきですよ。お断りしたらこの絵を1枚買ってくれって」
千円渡してお帰り願ったというわけだった。自分は物好きというか、バカというか全くしょうがない。
「それで彼等は何処へ行ったの」「隣の店でしょう」「おい捕まえて」ママは外へ出てちょっと離れた隣の店の階段を上がり始めていた3人連れに声をかけた。「お客さんがねぇ用があるって」
「この寒いのに大変だね。でもこれもありがたい文化の一つだ。で、どこから来たの?」
一杯はいって上機嫌の自分と承知している。ここまでは良かった。神楽装束の男は二人、この寒いのに和装の女性が一人。県北の城下町からという。わざわざ御苦労さん。
そこで千円札を1枚出そうと財布を開いたら、哀れなことに1枚も入っていない。
「あれっ夏目さんがお留守で福沢さんだわ。すまんがこれでちょっと返して貰えんかね。帰りのタクシー代もあるので」心得たもの。手篭を持った女性が
「ありがとうございます。お幾らお返しいたしましょう」とっさに出た言葉が
「すまん、半分くれる?」「ありがとうございます」
さすがに9枚返しては言えなかった。これが自分の最大級のいかんところ。
夏目君を5枚とあの“お福さん”の絵を5まい、さらに鬼の面を輪ゴムで止めたピーナッツを1袋、ご丁寧にポリ袋にいれて3人そろって「ありがとうございました」と頭を下げ神楽の口を開いて私に向ってぱくぱく。「ありがとう、一生懸命“福”を撒いて行ってくれ」
店へ返ったらみんな注目、説明しても皆フーン。これをお金の「ムダ使い」というのだろう。
翌日から、さてこの「お福さん」の絵をどこへ持って行ってやろうか。
結局自宅の床の間の隅に1枚、女房さまの眼に入りにくい所。行きつけの居酒屋。「どうしたの?」1杯飲んでお話。そして仕事仲間の会社の奥様に。等など。でも縁起ものと皆喜んで頂き今年良き年にと願うことにして。 |
寄稿Y.D |
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