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『良き先輩に感謝』 |
どうしても作ってみたい、作りたいものがありました。それには自分の考えは大凡のところで固まっていても、全体を構成する部分的な面での不安、もっと良い方法がありはしないか。そんなことを考えていたら元取引先のその道の大先輩が思いあたりました。お二人ともそれぞれこの業界の仕事をされており、今もお願いしたり、教えを乞うたりしてお世話になっている間柄でしたので早速電話でお邪魔させていただく日時も決めさせて頂きました。
「そんな複雑なこと考えてんの」だめかな、と思っていたら、「ここはこの様にしたら良いんじゃないの。部材はこんなのがあるし。それは止めたほうが良い。こうしなさい」
奥様と一人の社員、3人で頼まれれば作る、修理再生する、小さな鉄工所を経営しておられる。元は某メーカーの役員で技術屋さんだった方です。
それにしても原理は変わらないがやり方の違い、工夫には脱帽でした。
「これから図面を書いて作る段階になったら応援して下さいね」
「いいよ、急所はきちっと決めてやっから」
75歳まだまだ元気、お酒が美味いといわれる嬉しい存在です。
もう一方、電話でちょっとお会いしたい旨告げると。
「あぁ、いつでもいいよ。こっちへ来る用でもあるの?」日にちと時間、そして待ち合わせの場所のことになったら「泊まっていけば。俺も一緒に泊まろうか」
その日、東京からの車中に電話が入り、これからホテルへ向かうとのこと。
私が着いたのは20分位経ってからでしょうか、ロビーの椅子にもたれていつも変らぬ笑顔が私を迎えて下さいました。チェックインを済ませて高層ビルの窓からの眺めを楽しんで、夕方の時刻でもまだ明るい街へ出ることにしました。
「こんなホテルでなくて、俺の家へ泊まっても良かったんだぜ」
30年以上前になりますが、出張すれば必ず飲み歩き奥さんのお世話になって泊めて頂いておりました。話をしながら歩いて「居酒屋」の看板を見つけて入りました。
「昔の話になりますが、こんな機械2台作ってもらいましたよね。そんな資料も写真もないでしょうね」「作ったことは覚えてるが、設計した彼は大分前に死んじゃったからなー」
これ以上は無理と思い、お互いの近況と懐かしい昔の話で生ビールの杯をあけました。
「俺、もう80になっちゃうぜ。趣味が何も無いもんだから、いまだに頼まれて機械いじりしてるよ。でも体がやっぱり年なんだなぁと感じさせてくれるのが癪だね」
久しぶりの酒席でしたが、体を気遣ってか酒量もそこそこで話に花が咲きました。それにしても先輩は皆頑張っている、と敬服いたしました。 |
樋山忠明 |
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