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『懐かしい人の訪問から懐かしい人を思い出す』 |
珍しい方がいらっしゃいました。挨拶をされても分からないのです。失礼ながら怪訝な顔をしていると「MYです。お久しぶりです」
「あっこれはどうも、失礼しました。さぁどうぞ」
「お寄りしたのは2回目ですが、燕へは時々きております。それでも2回目にお会いできて良かったです」
「いつでもお寄りください」
20年位まえになりますが、ある本を買ったらアンケートの葉書がついており、投函したのです。1か月くらい経ってからでしょうか、そのことで電話を頂きました。東京からわざわざの電話と思って聞いたら新潟からとのこと、会ってお話をと言われちょうどお盆休みの頃でしたので、誰もいない休日にお出で願いました。その後いろいろとご指導頂いたり、会食、飲み会も行く度かございましたが、それらの会も閉会となりお会いすることもありませんでした。あの頃の思い出話、そして今の仕事の状況など話し合いましたが、突然
「たまに市内のあの通りを走るんですが、寄りたいなあと思いながら、時間が早かったり急いでいたりして寄らずじまいなんですよ、何と言いました、お肉の美味しい店」
「その店はもう12年前に閉めましたよ」
「えっどうして、確かSTさんと一緒に連れてって頂きましたよね。タンシチュー御馳走してもらって。あんなに美味しいものはどこにも食べられませんよね」
「みんなそうおっしゃって下さいます。本当に残念なことでした。私より2歳若く貨客船のコックで、諸外国を回った船乗りがまさか海で事故死とは信じられないような、でも本当のことなんです」
洋食の一品料理として、テル、タン、シチュー、ステーキ、逸品はハンバーグ、そして私はエビフライが好きでした。カウンター越しに見える豪華なメニューが盛りつけられて、自分の目の前に置かれたときは感激です。
奥さんを早くに亡くしてからカウンターの中は、彼一人となってしまいました。好評のシチューは10時間ほど煮込むとのこと。
気さくに話ができることもあって、遠方からの常連客も多かったようです。
2回ほど私の家へ来てくれました。突然電話で店を閉めてから来るというので、夜も11時頃になってしまいます。簡単なツマミを用意して彼の到着を待っていると、フライやハンバーグを子供のために持って来てくれるのです。
その晩は二人で飲み、話、時の経つのをしばし忘れて語り合い泊まって頂くのです。
業者仲間の旅行も断って、私たちの新年会には喜んで参加してくれました。
思いがけない人の来訪で、常には思い出すことも少ない「マスター」を忍ばせて頂きました。 |
樋山忠明 |
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