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| 『久しぶりのご発注』 |
「久しぶりに注文書が来たんだけどさ、聞いてみなきゃ分かんないよ、って言っといたんだ。どうする」関東地区の取引先からの電話でした。
「何枚ですか？」「それがね、3種類で15枚なんだよ」3種類で15枚とは。ちょっと考えたが、このご時世でもあるし、赤字の商売でもない。私がやればよい。自分で時間を作りさえすればそれなりの売上にはなる。
「良いですよ。やりましょう。但し納期はあまりきつく取らないで」この仕事は長年の付き合いのある同業者仲間でお互い仕事、商品を融通しあっている間柄なのです。
依頼を受けた当初、これは名古屋地区なら出来るだろうと思い、そちらの知り合いの仲間に紹介したが、一向に返事がこない。そこで催促したら、「これは新潟県の金属製品の製造地区なら出来るんではないかと、今燕、三条方面の伝手を辿って探してもらっている所だ」その返事を聞いて「それなら自分に思い当たる所があるから」
そこで私に電話をされて、早速そのサンプルと図面を持参されました。
驚きました。アルミの円盤の窪んだ外周に一面ポンチで目立てをしてあるのです。
不揃いですから完全な手仕事でしょう。一体この1枚どのくらいの時間を要しているのだろう。と、その名人芸に見惚れてしまいました。
「値段も高いし、それより注文してもその枚数が入ってこない。何とか方法を考えて種類は3種類あるけど、機械化するなり、工夫して作ってもらえないだろうか」
好奇心旺盛、そして良き相談相手もおられることから、簡単に「やってみましょう」と請け負ってしまったのです。そして相談に伺った工場でも「面白いやってみよう」ということになり、しばらくしてちょっと工夫した機械による製品が出来上がりました。手仕事のようなランダムな目ではなく、整然ときれいに並んでいます。出来た！
早速送ったところ、「これは素晴らしい」その後もコンスタントに注文が頂けるようになりましたが、厳しい要望も出てきたりして、色々あってお任せしていた所では満足のいく製品が難しくなったため、自社で装置を作り、目立てのプロに教わり私がやることにしました。試行錯誤の末やっと比較的安定した製品が作れるようになりましたが、最近は発注量も以前よりは極端に少なくなり、忘れかけている頃に声がかかるのが現状です。
半年くらい前になるでしょうか、「目立ての装置を見たいと言ってきているがどうします」
と言われたので、私も実際使用しておられる方にお聞きしたいこともあったので、「ぜひ」と承諾しました。やがてお出でになった工場長は、実際やって見せたら驚いて、
「一目づつ、こんなにして立てているんですか」そして発注量について質問したら、他のものは一切使っていないが、従来に増して今のが摩耗が少なく長持ちしているからとの事。
今後も少ないけれど続けてほしいとは。喜ぶべきか。それとも----。 |
| 樋山忠明 |
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